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もうひとつあった。
いやー、思い出すもんやね。
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あれは鈴木さんと遠距離になって数ヶ月目のこと。夏やった。暑かったもん。
東京で遊ぼうってなった。わたしは大阪、あの人は最初の異動でなんと東北に勤めることになったから、東京はちょうどよかったんや。
(ちなみに『木綿のハンカチーフ』はものすごく身に染みる)
(あんなキレイなお話やないけど)
(清純派でもない)
(都会の絵の具に染まるどころか彼は田舎の絵の具に……
(略)
(そして女は婚活を始めたのだった)
もちろん行き先を決めたのもプランを練ったのもわたし。
(どっかで聞いた話……ここんとこは今の彼も同じ……わたしがそうさせているんだろうか。そんな気がする)
朝、カフェで待ち合わせをしてそのまま、原美術館へ行った。
開館する前に着いたから、ちょっと庭みたいになってる、あそこで待ってた。
それはそれは蒸し暑い日。
彼は早起きをしたからか、はたまた暑さにやられたのか、不機嫌やった。
わてしたちは流れる汗をぬぐいながら、蚊の大群と戦ってた。
そうしてるうちに、なぜかしらんけど、蚊はわたしのところに寄ってくることに気がついた。
葉月「なんかわたしのとこ来てる気がするんやけど」
彼とは1ヶ月ぶりの再会。わたしは気候に不快さを覚えながら、でも、ひさびさに会えたことが嬉しくて、ちょっとでも彼のそばにいたくて。
蚊の大群から逃げるべく移動する鈴木さんの後ろをついてまわってた。
ら、
鈴木「……こっちくんなって、蚊くるやん」
鈴木さんは不快な心をむき出しにして、そう言い捨てた。
葉月「……」
わたし、なんも言えなかった。
わたしが嫌な思いしててもこのひと、自分のことしか考えてないんやーって。
でも正直、やっぱりなーなんて思ったところもあって。胸が痛んだ。